久しぶりの快晴に、どうしても生きた空気を吸いたくて、外へ出た。
自宅から五分も歩くと遊歩道にぶつかって、そこからにわかに景色が変わる。住宅地の真ん中を突き抜けるように、遊歩道は延びている。ちょっと前まで色あせていた風景は、もうすでに新たな緑が芽吹いていて、鮮やかとは言えないまでも、暖かみを感じさせるものに変化し始めていた。
寒い寒い冬の日は、部屋の中でうずくまり続けていた。
冬眠中のシマリスにも丸くなったダンゴムシにも負けないぐらい、じっとじっとちいさくなって、時が過ぎるのを待っていた。
その季節が、ほんの数ヶ月しか続かないものだと分かっていても、待ち続ける姿勢というのは、どこか永遠に似ていて、本当に気が遠くなる思いだった。
遊歩道にはさまざまな人が行き来していた。
手をつないで歩く老夫婦。
スローペースで流れていくサイクリスト。
ベビーカーに幼い子を乗せて、とつとつと進む小さなファミリー。
大通りの方向へ足早に過ぎ行く若者。
植栽の手入れをする作業服姿。
僕はふと上を見上げた。
道の両側には家々が建ち並び、時には小さな公園や、背の高いマンションなんかも現れるのだけど、ここが大都会の真ん中だという事を考えれば、この空はじゅうぶん拓けている。
ほんの一瞬、遠い記憶、郷里の膨大な空が微かに脳裏を掠め、消えた。
電柱と電線と屋根々々の間に挟まれた空は、確かに窮屈かもしれないけれど、健やかな眩しさに満ちていた。
既に慣れ、馴染み、親しむようになった、僕の空。
嗚呼……
ポケットに手を突っ込んだまま、気がつけば立ち止まっていた。
そしてようやく気付いた。
そこにはずっと、緩やかな風が、流れていたのだ。