あまりにも長い時間小説を書くことに集中していると、
幻覚を見るようになる。
そうなる頃には、
自分がどんな物語を書いているのかも忘れ、
無意識の中で手が動くようになっている。
やがて髪の毛の隙間を掻き分けるようにして、
米粒ぐらいの大きさや、
ピーナッツぐらいの大きさの文字が、
頭の中からわらわらと湧き出してきて、
首筋を伝って腕を渡り、
指に乗っかってペンの周りに集まって、
我先にと押し合い圧し合いしながら僕の手の上で列を作る。
列の先頭にいる文字は、
ボールペンの切っ先でぴょこぴょこと踊り、
僕が紙にペンを走らせると、
すうっとインクと混ざって紙の上に定着する。
そうやって、
一文字ずつ列は消化されてゆき、
僕の手元にはひとつの小説が残る。
僕自身は、大して何も考えていないのだ。
そんな風にして出来上がる小説も、
たまにはあるんですよ。
2007年8月29日水曜日
魚、あざ笑う
魚が笑った。
エサにぱくっと食らい着いて、にやりと。
(そんなはずはない)
僕は位置のずれためがねを掛けなおし、もう一度水槽の中を見た。
魚は僕に尻の方を向けて悠々と泳いでいる。
水槽の反対側のガラスにぶつかれば、
方向を変えてもう一度こちらを向くはずだと思って待っていたが、
魚は反対側のガラスを口先でつんつんと突っつき、
こちらに尻を振っているようにも見える。
まるで馬鹿にされているみたいだ。
業を煮やしてもう一度エサを上から振ってみると、
魚はふらふらと体をねじりながら水面辺りを目指して泳ぎだした。
僕はその様子をじいっと観察してみたが、
魚の顔は意思性を欠いた無機的なものにしか見えなかった。
やはりただの見間違いだ。
僕がそういう風にあきらめて水槽から離れて別の事をしようとした時、
視界の端っこでまた、
魚が笑った。
僕はあわてて振り返ってみたけれど、
魚は澄ましているのか、あるいは何も考えてないという顔をしていた。
僕は何度か水槽から離れる振りをしたり、
余所見をする振りをして、
魚の様子を伺ったが、
結果は同じだった。
その後はあきらめて気にしないようにしてはいるけれど、
時々、水槽のほうから見られているような気がして思わず見てしまいます。
案外と人を食う、利口な魚もいるのかもしれませんね。
エサにぱくっと食らい着いて、にやりと。
(そんなはずはない)
僕は位置のずれためがねを掛けなおし、もう一度水槽の中を見た。
魚は僕に尻の方を向けて悠々と泳いでいる。
水槽の反対側のガラスにぶつかれば、
方向を変えてもう一度こちらを向くはずだと思って待っていたが、
魚は反対側のガラスを口先でつんつんと突っつき、
こちらに尻を振っているようにも見える。
まるで馬鹿にされているみたいだ。
業を煮やしてもう一度エサを上から振ってみると、
魚はふらふらと体をねじりながら水面辺りを目指して泳ぎだした。
僕はその様子をじいっと観察してみたが、
魚の顔は意思性を欠いた無機的なものにしか見えなかった。
やはりただの見間違いだ。
僕がそういう風にあきらめて水槽から離れて別の事をしようとした時、
視界の端っこでまた、
魚が笑った。
僕はあわてて振り返ってみたけれど、
魚は澄ましているのか、あるいは何も考えてないという顔をしていた。
僕は何度か水槽から離れる振りをしたり、
余所見をする振りをして、
魚の様子を伺ったが、
結果は同じだった。
その後はあきらめて気にしないようにしてはいるけれど、
時々、水槽のほうから見られているような気がして思わず見てしまいます。
案外と人を食う、利口な魚もいるのかもしれませんね。
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