どことなく沈みがちになっていた週末の気分など、まるできれいさっぱり無かったことのように忘れることが出来る。
よく乾いたTシャツには、そんな力がある。
……… コウイチは日曜日の朝早くから溜まっていた洗濯物を片付け、昼の時間が始まる前にはそのほとんどがすっかり乾いてしまった。
目が覚めたのは、まだ始発電車も動き出していないくらいの時間だった。
土曜日は久々に仕事が早めに片付いて、コウイチはそそくさと家に帰り、早くも睡魔に襲われてふらふらになる頭と体を振り絞って風呂に入り垢を落とし、夜の始まる頃にはもうベッドの中で熟睡していたのだ。
おかげで早い時間に目が覚めて、頭もすっきりとしていた。
しばらく頭痛に悩まされる日々が続いていたのに、頭の奥に腫瘍のように住み着いてしまった重い感覚が、嘘みたいに無くなっていた。Tシャツ一枚でこんな気分になれるのなら、普段から早起きしてみるのも悪くない、とコウイチは思った。
あまりの気分の良さに、コウイチは携帯電話を手にとって、短縮ダイヤルの一番最初に登録してある相手に電話をかけた。
……
…
八回目のコールでようやく反応があった。
「………何?」
明らかに機嫌が悪い。
「起きてた?」
「寝てたわよ」
「おれ、今日ものすごく早く起きて、洗濯なんかももう終わっちゃって、それで、天気が良いからさ、Tシャツがカラッカラに乾いて気持ちいいんだ」
「……」
「何か知らないけど最近悩まされてた頭痛もなくなっちゃってさ。早起きって良いもんだね」
「……あ、そう。そりゃ良かった」
「君もやってみたら。この清々しさは、きっと病みつきになるよ」
「ねえ」「うん?」
「いきなり電話してきて、言いたいことはそれなの?」
「そう」
受話器の向こうからは深いため息が聞こえた。その一息で空を曇らせる大きな雲が生まれるのではないかと思えるほど雄弁なため息だった。
「あたしの日曜の楽しみはね、布団の中で昼過ぎまでだらーっとごろごろしながら二度寝三度寝を味わってもうダメって言うぐらいまで怠けきって怠け尽くすことなのよ。今何時だと思ってるの? まだ十時よ、十時! しかも午前! 私にとっては明け方よ。早朝で曙で暁で東雲なの! いくら太陽が昇っても、私の一日はまだ始まらないの。解った?」
「ああ、うう」
「じゃ、おやすみ」
「うおうん」
「あとね、こういう電話は自分の彼女に向けてしなさい。迷惑」
電話は切れた。
彼女の最後の台詞はコウイチの耳に残って離れなかった。
あれは腹立ち紛れのジョークだろうか? 彼女はドSだし。それとも、僕は今まで何かとんでもない勘違いをしていたのだろうか?
コウイチは、だんだん頭が痛くなってくる気がした。
0 件のコメント:
コメントを投稿