船は出航するところだった。
汽笛が咆哮をあげ、舫が解かれ、緩やかに離岸する。
時間ぎりぎりで、僕は乗船することが出来ていた。
行く先を決めない旅の途中でも、こういったひとつひとつの出発は、胸の奥に沸々と新鮮な期待を沸き上がらせてくれる。
手持ちの荷物は少ない。
僕はすぐに船室には向かわず、船側のデッキを散策することにする。港に接していた側を通って先端へゆっくりと移動する。外周をぐるりと一回りするわけだ。
海へ出るために、船はゆっくりと旋回していくので、その流れと少しずれながら流れる景色を不思議な感覚で楽しむことが出来る。
乗船するまで少し走っていたので、心臓の鼓動がまだ波長の短いビートを打っている。
高揚感は錯覚だろうか?
肉体的な代謝活動に精神がリンクしてしまっただけなのかも知れない。
それでもやはり、僕は期待する。
まだ見ぬ土地。見知らぬ人との出会い。
自分が初めて現実的にリンクする事の出来る全てのものが、我知らず僕を待ち受けている。
選手が港へ背を向けた。
僕もそれに同期する。
海はどこまでも広がっている。
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