2007年12月1日土曜日

盗人家業

 自由を阻害されるのが、この世で最も煩わしいことだ。
 この世は組織とシステムによって管理されていて、その管理の範疇に収まらない者は徹底的にはじき出される。
 俺が盗人になったのも、理由はそんな所からだ。もともと集団生活というものに馴染めなかったし、ガキの頃から一人で動いた方が気が楽だった。それで周りと違う行動をとると、いろんな方向から俺を矯正しようというする奴らが現れて、叩きのめされる訳だ。
 まあ、どこにでもある話だ。そんなに珍しくも面白くもない。
 要は結果として一人の盗人が生まれましたよ、とそれだけ伝わればいい。
 それで何で盗人なのだ、他にも道はあるだろう、と言われると、それはそうかも知れないと今では思える。それまでの人生でもっと尊敬できる人間や立派な大人に出会えていたなら、俺も今頃違う道を歩んでいたかも知れない。でも俺はそうではなかった。こうなってしまった。そして、これはこれで一つの生き方だと思っている。他の生き方は今の所分からない。
 盗人家業も本気でやると楽ではない。何しろ手を抜いたりほんの少しでも油断があると簡単に逮捕されて即、刑務所行きだ。一度捕まったら余罪を追及されて軽い刑では収まらないだろう。それなりに大きなリスクを抱えてやっている訳だ。だから準備は怠らない。他の奴は知らないが、俺は何しろ安全第一でやる主義だ。強引な侵入なんかしない。入れる家に無理無く入るようにしている。
 しかし最近は面倒になって来た。同業者が増えて来たんだ。しかもそこに外国人のグループなんかが居たりする。一度うっかり現場で鉢合わせにしそうになったことがある。不用心な家はどんな盗人から見ても同じように不用心に見えるという事なのだろう。俺もこの家業が長いから、妙な雰囲気を感じて様子を窺っていたら、先客が居たっていう次第だ。
 奴らが派手にやるせいで、警察はパトロールを強化させるし、一般家庭でのセキュリティに対する意識は高まる一方。おかげ出稼ぎはいい時の半分ぐらいにまで減ってしまった。まあ、コツコツ貯金していたからしばらくは生活に困る事は無いんだけどな。
 先々いろいろ考えて、転職しようかと思っているんだ。って言ったって組織につくのはまっぴらごめんだから、今まで鍛え上げた腕を買ってくれそうな探偵社なんかどうかと思ってね。履歴書が必要、なんて言う所はまずお門違いだ。堂々と人に見せられる経歴なんか俺には無い。
 いろいろ探してみるつもりで入るが、どこかいい所知ってる奴が居たら、ぜひ教えてくれ。謝礼はたっぷり出すからさ。でも、金の出所なんて聞かないでくれよ…

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