2007年12月8日土曜日

巨大なダッタ君

 ダッタ君は、とても大きい。
 ダッタ君より大きい人をぼくは見たことがない。
 ダッタ君と話をするときは、みんな顔をずっと上の方に向けて話さなければいけない。
 ぼくはダッタ君とよく話をするから、しょっちゅう首が痛くなってしまう。
 ダッタ君はやさしいので、ぼくが首を痛そうにしていると、その大きな体をググーッと折り曲げて、ぼくの顔の高さに合わせようとしてくれる。
 でも、ぼくはクラスでも一番前に並ぶくらい背が小さいから、ダッタ君がそんなふうに気をつかってくれても、やっぱりすこし上を見上げて話をすることになるんだ。
「ダッタ君は、大きくなったら何になりたい?」
「ぼくはこれ以上大きくなりたくないよ」
「そうなの? ぼくは小さいからちょっとうらやましいけどなあ」
「ぼくはケンジ君の方がうらやましいよ」
「でも、チビチビって言われるよ。大きい方がいいよ」
「ぼくは大きいだけで何もできないってパパに言われるんだ。そりゃちょっと動きはにぶいかも知れないけど、そこまでひどくはないつもりなんだ」
「ダッタ君はそんなにひどいなんてことないよ。誰もとどかない所に手がとどくしさ」
 ぼくがそう言うと、ダッタ君はしゃがみ込んだまますこし上を向いた。
「そうかな」
「そうだよ」
 そしてダッタ君は何回かうんうんとうなずいて、大きく口をまげて笑った。
「それで、さっきの話だけどさ」
「何だっけ?」
「ダッタ君は大きくなったら何になりたい?」
「ぼくはこれ以上大きくなりたくないよ」
「そうじゃなくって、しょうらいの夢とか、仕事とか」
 ダッタ君はしばらくぼくの顔を見て「考えたことないな」と言った。
「ケンジ君は考えたことあるのかな」
「ぼくはね、柔道の選手になりたいんだ」
「ジュウドウ?」
「うん。それでね、自分より大きな人を投げ飛ばすようになるんだ」
「そんなことできるの?」
「そうだよ。そういうのを柔よく剛を制すって言うんだよ」
「そうか。じゃあケンジ君は強くなるんだね」
「うん。強くなりたいなあ」
「ぼ、ぼくも投げられちゃうかな」
 ぼくはダッタ君の顔を見上げた。
「ダッタ君、ちょっと立ってみてよ」
 ダッタ君が立ち上がると、ダッタ君の顔は思っていたよりもずっとずっと高い所にあった。
 ぼくは思わずため息をついた。
「ダッタ君は、ほんとうに背が高いねえ」
「で、でも、投げ飛ばすんでしょ?」
「ダッタ君は投げないよ」
「どうして?」
「だって、ともだちだもん」
「そうか。ケンジ君がやるならぼくも柔道やろうかな」
「ダメだよ」
「どうして?」
「ぼくとダッタ君が試合するときは投げ飛ばさなきゃいけなくなるよ」
 ダッタ君は、はっとして首を振った。
 そしてまたしゃがみこんだ。
「でも、いいなあ」
「ダッタ君はバスケットの選手がいいよ。ぜったい活躍できるよ」
「そうかな」
「バスケットは背が高い人に向いてるんだ」
「活躍できるかな」
「ダッタ君ならだいじょうぶだよ」
「じゃあ、そうしようかな」
 ぼくはダッタ君を投げ飛ばすのはちょっとむずかしいと思っていたから、正直言ってほっとした。
 でももしぼくがダッタ君を投げ飛ばしたら、ダッタ君は傷ついてしまうと思うんだ。
 ダッタ君はけっこう繊細なので、ぼくは意外と気をつかっている。

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