ふうっと息を吹きかけると、空間にわだかまっていた塵や埃がはらはらと乱れて流れた。
ついさっき部屋の掃除を片付けたばかりなのにもうこんなに新しい塵や埃が浮かんでいる。
早苗はため息をついた。
毎日がこうやって同じ事の繰り返し、しかも終わる事がない。後から後から、片付けたはずのものが片付けたそばから新しく他のモノと入れ替わり、まるで早苗の苦労などなかった事のように当たり前にそこに存在している。
だから早苗は時々、掃除するのが嫌になる。何もかもとっ散らかして一切の家事を忘れてしまいたくなる。でも、そうしたところで結局後からまたそれを片付けるのは自分なのだ、と思うことでそんな怠慢な考えを押し止めている。
早苗は、舞い上がる塵の一つを指でつまもうとしてみた。
しかし塵は早苗の指が起こした風に乗って、するりと早苗の指の間をすり抜けていった。
早苗はその塵の行く先を眺めた。
塵は気流の流れにそってふわふわと辺りを漂い、影に入って見えなくなった。
何度か同じ事を試してみたが、同じだった。
(いっその事、部屋の中をすべて影で覆ってしまえば、塵も埃もないのと同じ事になるのだ)
早苗はそうも思ったが、窓際に出来る小さな日だまりのあたたかさが好きだった。
この居間の窓にはお昼前の少しの間、日の光が差し込んで室内を照らし出す。
もう少しでなくなってしまう小さな日だまりの中に体を丸め、早苗はその温もりを惜しんだ。
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