2007年11月13日火曜日

Q-FRONT:STARBUCKS

 店の中は満員で、空席を求めて人々が彷徨っていた。
 ここには様々な種類の人間がいる。

 旅行の計画を立てる恋人達。
 仕事の資料を広げるサラリーマン。
 時間をつぶしているだけの若者の固まり。
 スクール帰りの少年達。
 買い物の後の紙袋をいくつも抱えた女性。

 次々と休みなく、人は訪れる。
 女が携帯電話で何やら話しながらまわりのテーブルから空いている椅子をかき集め、後から来る仲間の席を確保した。
 空席を探していたカップルは、容器返却の棚の傍らで壁に寄りかかった。

 この限定的な雑踏の中で、どこかの雑誌のモデルのような長身の女が店の真ん中を突っ切って歩いた。
 彼女が数歩、歩いただけでその後の空間は鮮やかに切り裂かれ、彼女の前にはモーゼの十戒のように道が開いた。
 しかしそんな光景すらも小さな奇跡でしか有り得ず、店の喧噪はほんの少しも衰えなかった。

 流行のメイクなのか、あるいはごくごく普通の事なのか、瞳が大きい、あるいは大きく見える女性が多い。
 いくつかの瞳が強く印象的に僕の目を捉え、しばらくするとその情動の欠片は記憶の辺縁から過去の洞穴へと落下していった。

 人は休みなく次々と訪れ、彷徨い、時には諦め、時に妥協し、そうでなければ待ち続けた。
 いつまでも、いつまでもその営みは繰り返され、窓際の席から見下ろせるスクランブル交差点では地面のアスファルトを覆い隠す程の人ごみがもぞもぞと蠢き、この街がこうして生きているのだと、僕に教えてくれた。

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