何処まで転がっていっても終わりがなさそうな坂道だった。
その道はほんの少しも歪む事なくまっすぐに地平線の彼方まで続いていた。
しばらくずっと下りが続き、ずいぶん先の方でまた上り坂になっているようだ。
ここまでくるのにもうずっと坂を上って来ていた。
それまで自転車に乗って走って来た道は地形に沿う形でくねくねと曲がり、
急なカーブや大きく緩やかに回るカーブが幾度となく続いて来たのだ。
平地でも小さな丘でも山道でも、こんなにまっすぐな道を見たのは初めてだった。
どんな舗装された道路でも、完璧に直線的な道なんてありえない。
かなりの距離を走って来たはずだが、
今、目の前にある道は、恐ろしく完璧な直線に見えた。
ひょっとしたら道を間違えてしまったのかも知れないと思ったが、
他の道への分岐など途中になかったはずだ。
ようやく坂を上り切ったと思ったら、
予想外の風景に出会ってしまい、
少年はしばらくその道を眺めて立ち止まった。
突然訪れた衝動に従って無計画に走って来た。
ほんの散歩のつもりでふらふらと自転車のペダルをこいでいただけだった。
初めに小さな丘を越えそのまま丘を下った時、
少年は自分が途中でやめる事の出来ない流れの中に居る事を悟った。
何故そんな事が起こったのか何が少年をそうさせたのか、
考えればきりがないのだが少年はただその流れに従おうと思ったのだ。
考えるのは後でいい。
おそらく今は走るべき時なのであって、
結果は後からついてくるだろうしとにかく走れば何かが分かる。
少年は自分なりにそう解釈して走ってきた。
走り始めたのは早朝のまだ朝日が昇り切らない頃だったから、
もうかなりの距離を休みなく走っているはずだ。
太陽は頭上の最高点をいくらか前に通り過ぎ、
午前中に十分暖められたアスファルトから立ち上がる熱気と、
遮るものもなく降り注がれる光の圧力に、
少年の体力はかなり奪われていた。
それに応じて思考力も衰え物事の是非を判断する事さえ難しい。
目の前に延々と伸びゆく不思議な直線道に少年は魅入られ、
するするとペダルをこぎ始める。
ここまできたんだ。
余計な事は考えるな。
少年はおぼろげな思考力の中でそう自分に言い聞かせ、
前に進んだ。
一度下り始めると、
少年を乗せた乗り物は重力の推進を得て加速度を増した。
スピードが上がる程に風の抵抗が強くなり、
姿勢を保つのに体中の筋肉を使った。
道はまっすぐに延び、
自分もまっすぐに下っているだけのはずなのに、
そうする為には力強くバランスを保つ力が必要だった。
少年はさらに速度が増すように出来るだけ体を小さくまとめた。
坂は中々終わらなかった。
少年のスピードは上がり続けた。
もし今バランスを失って倒れたら、
頭や体をしたたかに地面に打ち付け僕は死ぬかも知れない。
少年はそう思うと同時にそれでもいいとも思った。
彼はただ単純に正面を見据えてスピードに全てを委ねた。
彼はそうして一つの直線と同化し、
この世界を構成する一つのピースとなり得たのだ。
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