ふと音がして空を見上げると、夕闇の空に紙切れが舞っていた。
しかしそれはよく見ると鳥の群れだった。
軽く百は超えようかと言う数の黒い影が、青とグレーとオレンジのグラデーションに染まった背景の中を疾駆してゆく。
すぐ傍に立っていた街灯に灯がともり、その白い光が他の色彩の中でぼんやりと主張を始める。
群れはある程度進むと大きく弧を描きながら旋回し、やがて空に不完全な輪を作った。
その中から数羽が若干群れを離れて輪の外に飛び出し、違う方向へ旋回して行った。
その通りにいた何人かの通行人達は、何事かと皆一様に空を見上げていた。
群れの数は次第に増えて行っているように見える。もう、百どころではない。
既に通りの外灯には全て灯りがついて、町も、人も夜の支度を始めている。
しかしまだ、時は黄昏から離れてはいない。
空の住人達ははまだ数を増やしている。
脅えた女の声がそこかしこに聞こえ始め、低い声で唸る男のざわめきもその中に混じっていた。
それとない不安が人の心に訪れた。
彼らは我々から時を奪おうとしている。
黄昏の夕闇を空の世界のものだけにしようとしている。
この世界で最も美しい時間の空を。
群れはまだ広がっている。
やがて輪は完全になり、その面積を広げ、我々の目を光から遠ざけ、地上を暗闇で覆うのだろう。
そして黄昏の支配に飽き足らず、昼の青も、夜の藍も彼らの影で埋め尽くすつもりなのだろう。
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