2007年9月16日日曜日

スペースシャトルシゲル

スペースシャトルシゲルは天空の城にたどり着いた。
始めは月に行くつもりだったのだが、座標が狂って道に迷った挙句、思い切って進んだ方向にその城はあったのだ。
何故そのスペースシャトルがシゲルと名乗るようになったのか、そして心と意志を持つようになったのか、それは誰にも分からない。でもその中にいる乗組員達とシゲルとの関係は非常にうまくいっていた。何かしらの問題が起こって困った時にはよく話し合って解決の道を探ったし、そうでないときには無駄なおしゃべりなんかも交わしたりした。そんな風にて、長い宇宙の航海の間に、彼らの信頼関係は強固なものに築き上げられていた。
だから、彼らが天空の城に辿りついた時も、彼らは恐れることはなかった。信頼できる仲間がいるから、どんな未知の物にも突き進んでいくことが出来たのだ。

城の広場の片隅にはシゲルにあわせて作られたような発着場が二つあって、その一方にシゲルは難なく降り立った。
乗組員達が注意しながらスペースシャトルの外に出ると、広場の中央で遊んでいた三匹の子豚が我先にと近づいてきた。乗組員のみんなは驚いた。子豚たちはとても自然に二つの足で歩いていたのだ。三匹ともそっくりで、うっかり油断すると誰がどれだかわからなくなった。
「我々は三つ子なんですよ」
子豚の一人が言った。
「ここには双子か三つ子の者しか住んでいません。初めていらっしゃった方たちはみんな驚きますけどね」
隊員のゲンは驚いて言葉を返した。
「豚が喋った!!」
しかしそのやり取りを聞いていたシゲルが横から割って入った。
「ゲン、失礼じゃないか。僕だってスペースシャトルなのに喋るんだぜ」
「ああ、確かにそうだったな。ごめんよ、子豚ちゃん」
「いえいえ、大したことじゃないです。それより、たいそう立派なスペースシャトルですね」
「ええ、シゲルというんです」
「シゲルです。よろしくどうぞ」
「そうですか、そうですか。では、シゲルさんはしばらくここに居て頂いて、乗組員の皆さんはどうぞ中でおくつろぎください。長旅でお疲れでしょう。ここは宇宙でも辺境の土地ですから、こうして迷い込んでこられた方には手厚くおもてなしをするのが天空の城の流儀なのです」
三匹の子豚は綺麗に言葉を揃えて、美しいコーラスを奏でるように一緒に喋った。
ゲンたちは顔を見合わせ、どうしようかと考えた。そこへシゲルが口を挟んだ。
「みんな、行って来なよ。どうやら悪い人では無いようだよ。ゆっくり休んでくるといい」
「シゲルがそう言うなら…」
ゲンたち乗組員は、仔豚達に連れられて天空の城へ入っていった。

しばらくすると、もう一つの発着場にシゲルそっくりのスペースシャトルが着陸した。
着陸するなり、彼はシゲルに話しかけてきた。
「僕はワタル」
「キミは僕にそっくりだね」
「当たり前さ。僕らは双子なんだから」
「え?そうなの?」
「なんだ、聞いてないのかい?あの子豚達もしょうがないな」
「でも僕は人に作られたスペースシャトルだよ」
「それはそうさ。でもここは天空の城だし、キミの住んでいた所とは違うんだ。ルールとか、文化とかがね。君は確かに人間の手で作られたかもしれないけれど、僕と双子の兄弟ということに変わりはない。そうでなきゃ、スペースシャトルが喋るなんて、誰が思う?」
シゲルは考えた。ワタルは横から口を挟んだ。
「あんまり考えないで。何か僕との繋がりを感じてくれればそれで良いんだ。僕らは世界でたった二つのスペースシャトルなんだから」
「スペースシャトルは他にもあるよ」
「命を得たのは僕らだけさ」
「本当にキミと僕は双子の兄弟なんだね?」
「そうだよ。僕らはこの城で生まれたんだ」
「ここはいったい何なんだい?」
「説明するのは難しいな。この世とも、あの世とも、言えないね」

二人の話は延々と続いたが、しばらくすると
「そろそろ行かなきゃ。こう見えて結構忙しいんだ」
とワタルは言った。
「またいつでもきなよ。ここキミの故郷なんだから。天空の城はいつでも君を待っているよ」
ワタルが去ってしばらくすると、三匹の子豚がゲンたち乗組員を連れて外に出てきた。
「シゲル、ここは素晴らしい場所だ。ぜひまた来よう。帰る道も教えてもらった」
「それは良かった。じゃあ、道すがら、城の話を聞かせてくださいね」
そしてスペースシャトルシゲルはまた宇宙へと旅立った。
どうやら自分の生まれ故郷らしい天空の城を後にして。

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