2007年9月13日木曜日

サムライソウル

一人のサムライが僕の中に住んでいる。
二重人格とか、多重人格とか、そう言う類の話ではない。
彼は僕の心の一部を陣取っては居るものの、決して僕を押しのけて表に出てこようとはしないし、それこそ武士道さながらに謙虚で鍛錬を欠かさず、いつの厳しく自分を律している。
ただ、僕が悩んだり、迷ったりしていると、ふと口を出してくる。話し相手には丁度いい。

僕が目を閉じている時に、カキン、と刀の鯉口が音を立てたら、それは彼が立ち上がったという「しるし」だ。
僕と話すとき、彼は常に刀を左手にぶら下げ、いつでも抜けるような状態にして現れる。
その立ち姿には力んだ所がまるで無く、一見ふらふらとしていて押せば倒れそうに見えるのに、いざ対峙するとまるで勝てる気がしない。
それなりに、剣の達人なのかも知れない。
「それなりなどと言うな」
僕の考える事は全て彼に筒抜けだ。何しろ僕の精神の内側にいるのだから仕方が無い。
「何を話しているのだ」
いや、ちょっとね。
実のところ、彼は全くの気まぐれで話しかけている節がある。暇なのかな?と思う時がある。
どうして僕の中に住みついてしまったのだろう?僕は聞いてみた事があるのだ。
「ここは中々広くて心地が良いのだ。余計なものがあまり無いしな」
「それは僕があまり物事を深く考えてないという事ですか?」
「有り体に言えばそうだ。だが悪い事ではない。最近はどいつもこいつも考え事が多くて困る」
「今まで色々と宿を変えて来た訳ですか?」
「うむ」
「結構風来坊なんですね」
「別に主君に仕えている訳ではないからな」
「今回は何です?」
「それは私の台詞だ。今、悩んでいるだろう?五月蝿くてかなわんのだ」
「そうですね、ちょっと人間関係で。最近チームに入って来た奴が困った奴で。空気を読まずに自分の主張ばかりするんですよ」
「斬ってしまえ」
「いやいや、この平成の世にそんな事は出来ませんよ。斬ったら逮捕されますよ」
「面倒な事だ」
「そうなんですよねえ。実際斬っちゃったら簡単だとは思うんですけどねえ」
「その気になったら俺を呼んでいいぞ。いつでも刀を貸してやる」
「いいんですか?刀は武士の命じゃないんですか?」
「まあ、堅い事言うな。私と君は一心同体みたいなものじゃないか。なあ、兄弟」
「でも、僕に刀が扱えますかね」
「実際斬れる訳じゃないから大丈夫だろ」
「それじゃあ、そもそも刀必要ないじゃないですか」
「拙者は心の有り様の事を言っているんだ。精神の修行だ。心に刀を持てという事だ」
「なるほど」
「やればできる」
「切れ味鋭い言葉なんかが出て来ちゃったりしますかね」
「そう言う事もあるかも知れないな」
「そうかあ、楽しみだなあ」
「鍛錬を怠るな」
「できるだけそうしますよ」

結局このばかばかしい会話が僕の気分転換になっているのだ。
「ばかばかしいとはなんだ」
ああ、はいはい。

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