あの流れ星はどこへ飛んで行くのだろう。
山の向こうへ消えて行ったみたいだけど、どこかで地面へ落ちたのだろうか。
自分の息子が生まれて初めて流れ星を見て、それがまだ何かも分からず夜空に向けて星をつかもうとしている姿に、私は子供の頃に感じた疑問を思い出していた。
今息子と見ているのと同じあの坂の向こうに、地上に落下した流れ星が転がっているかも知れないと思って、見に行こうよ、と父に何度もねだったのだ。父はその度に「流れ星の周りは危険だから近づいちゃ行けないんだ。気が立ってるからそっとしてあげないと」と言ってごまかしていたのを思い出す。「流れ星は怒っているの?」と私が聞くと、「いや、どちらかと言うと寂しいんだと思う」と父は答えた。「慰めてあげなくていいの?」
「落ち着くまでしばらく待った方がいいんだよ。結構時間がかかるはずだから、お前はもう寝なさい。お父さんが後で行ってくるよ」
そう言って父は私を肩に担ぎ、何度も丘の向こうへ振り返る私の気を逸らしながら家に連れ帰るのだった。
父はとてもうまく嘘をついてくれたと思う。あれがただの宇宙の塵で、大気の摩擦で燃えているから光って見えるのだと説明されたら、果たして当時の私は理解できただろうか?もしかしたら夜空に対してまるで興味を失ったかも知れないし、あるいは星や宇宙に対してもっと違った関心を抱いて、今頃物理学者にでもなっていたかも知れない。
ともあれ、私は父の嘘が、そうとは知らず好きだった。幼い私にとって、それはリアリティのある物語だった。
坂の向こうには流れ星は落ちていない。その事はいつの間にか当たり前のように分かるようになっていたが、考えてみれば実際に確かめに行った事は無い。
私は息子を肩に担ぎ、坂の方に向かって歩き始めた。幼い息子はその変化を喜んでいるようだ。私の頭上で甲高い声を上げ、さかんに手足を動かしている。
私は息子が肩から落っこちないように支えながら、少しずつ坂を登る。そうして歩き始めてみると、意外にも胸が高鳴り始めた。
私は本当はずっとこの坂の向こうを見たかったのかもしれない。そう思うと、確かにそうだと、はっきりと意識が目覚める感じがした。
本当はその向こうに何があるのか、私は十分知っている。
でも、もしかしたら、何か違うものが見えるかも知れない。
ありえないとは思いながら、私は少年のような心で一歩一歩坂を登って行った。
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