2007年10月20日土曜日

一歩手前

うずうずしていた。
ずっとずっと、そのイメージは僕の頭の中に住みついていた。
でも、長い間、僕はそれを無視していた。
ありっこない。考えては行けない、と。

しかしいざビルの屋上でフェンスを越えて
足元に広がる莫大な空間を目にした時
それは僕にとって果てしない可能性を思い起こさせた。

飛べるかも知れない。

子供の頃から、考えていたのだ。
本当は、ひとは飛べるのではないだろうか。
無理に羽ばたこうとしたり、
鳥の羽を模したものを造って身につけたりしなくても、
心のままに飛ぶイメージにに身を任せてしまえば、
実は飛べたりするんじゃないのか?

僕はまだ、一度も試してさえいない。
木のてっぺんから飛び降りたり、
高い壁の上から飛び降りたり、
そういう挑戦は無駄で馬鹿のする事だと教えられたし、
僕も自然にそう思っていた。
でも、僕はそう言う常識の影で、
何か得体の知れない生き物が、
腹の中で成長しているのを感じていた。
今になってそれが何者だったのか、よく分かる。
あれは僕自身の
「飛びたい!飛びたい!」
と言う叫びだったのだ。

特にきっかけがあったと言う訳ではないと思う。
ただ、その叫びは表に出なかった分だけ、
僕の腹の中であらゆる常識的障害から守られて、
ゆっくりと、着実に、純粋なままで、
育っていたに違いない。

正面から、有無を言わさず体を揺さぶるような
激しい風が吹きつけ、僕はふらふらと屋上の縁をふらつきながら移動した。
僕は表の世界に顔を出してきてしまった叫びと、
これまでの人生で培ってきた常識の壁がぶつかる境界線を、
いつまでもいつまでも歩き続けた。

0 件のコメント: