2007年10月9日火曜日

光と影2

影は腕組みをしたようだが、シルエットだけしか見えないから、本当のところは片方の手をあごにかけてでもいるのかも知れない。
「しかし、困った事になっちゃったね」
(ここはどういう場所なんだ?僕は君の影になってしまったのか)
「それはちょっと違うな。僕と君、影と光の関係が逆転してるだけなんだ」
(逆転?)
「そう。例えば、この世界の空には太陽の代わりにブラックホールが浮かんでいる」
(なんだって?!)
「それだけじゃない。地球の中心には太陽があるんだ」
(ちょっと待ってくれよ…そもそもここは地球なのか?)
「そうだよ。当たり前じゃないか」
(ブラックホールが空に浮かんでいるのに?僕には全然見えないけど)
「そりゃそうさ。考えてもみなよ。僕は光の世界じゃ太陽を見た事は一度も無いんだぜ」
(なんでさ)
「いつも君が間にいるから」
(…なるほど。言われてみればそうかも知れない。でも、ここが地球だと言うのがいまいち分からないけど)
「そうだな…例えば、ゴムの柔らかいボールがあったとしよう。ボールのどこかに鋭いナイフで切れ込みを入れる。そして内側と外側をひっくり返す。そうすると外と中の関係が逆になるだろう?その時出来たひっくり返ったボールを地球に置き換えて考えてみるといい」
(なんだか難しい話だな)
「まあ、慣れないとね。とにかくそう言うものだ。だから、重力の中心たるべきブラックホールが空から光を吸収しているという訳さ」
僕は地面から空を見上げた。灰色の空に、一筋の光が流れて僕の影の向こう側に消えて行くのが見えた。よく目を凝らしてみると、幾筋かの光が時折影の向こう側の一点を目指して集まっているように見える。影の言う通りなら、おそらくその向こうで光がブラックホールに吸収されているのだろう。
(まるで流れ星だね)
「ぞっとしないね」
(そうかい?なかなか奇麗じゃないか)
「分かってないな」
影はため息をついたようだ。
「光あっての影なんだ」
僕は、僕の影が感じている危機感をまだ理解できない。
(なあ、聞いてもいいかい?)
「なんなりと」
(今の君から僕はどんな風に見えてるの?)
影はにやりと笑った。もちろん黒い人型でしかない影だから、そんな雰囲気に見えたというだけなのだが。
「君は色鮮やかなままさ。ちょっと平面的だけどね」
その言葉を聞いて、僕は不思議とほっとした気分になった。

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