2007年10月23日火曜日

静寂の中のステップ

誰も見ていないと思って、僕は道の真ん中でステップを踏んだ。
靴音が廊下の壁に反響して小気味よい音を立てる。
車も、人も見当たらない、静寂の街角。
僕を邪魔するものは無く、次第に夢中になって行く。
本当に誰もいない。
嘘のように誰もいない。
奇跡のような時間帯。
毎日ここを歩いていると、ふとこんな時間が訪れる。
それは滅多に無い事だ。
まるで時間の流れからこの空間だけ切り取られてしまったように
今、ここには僕一人だ。

ステップは、速度を増す。
僕は静寂と一つになる。
意識はもう自分だけのものではなく、
その空間に広がるあらゆる精神的なものと結びつく。
靴音のリズム。
街角の波長。
喧噪はまだ遠く深い眠りに落ちたまま。
軽く始めたステップは、
更に更に速度を上げる。

僕はいつしかステップと一体になり
街と一体になり
静寂と空虚の中に溶け込んでいく。
思考は途切れ無意識が拡大する。
自分の中で何かが弾け飛んで行く。
僕は僕自身を失いそうな程、
その行為に没頭していく。
もう少し、もう少しで…

別の通りから車のクラクションが鳴り、
その破壊的な轟音は文字通り静寂を破り、
僕はステップをやめて歩き始めた。

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