「そこまでして、やらなくちゃいけない事なの?」
夜も更け、人の少なくなった物静かな喫茶店の片隅で、小さな声で告げられた彼女の言葉はとても優しくて、僕はそのぬくもりに溺れそうになるのだけれど、どうしてもそうする訳にはいかない。
彼女の純粋な思いやりや気遣いに甘えたいのは山々だけれど、僕はどうしてもやらなければならない事がある。
それは誰に強制されている訳でもない、あくまで個人的な目的でしかないのだけれど、今の僕にとって何よりも大事なことだ。彼女だってそれは解っていて、それでもやはり言わずにはいられないのだろう。僕はその気持に感謝する。
やめることは簡単で、その瞬間に僕は楽になれる。そして同時に大きなものを失ってしまう。心の一部。存在の理由。大げさかもしれないけれど、特別な事じゃない。何かを目指してしまった者なら、誰にでもあるものだ。
ねえ、もし今この時に、君の言葉に全てを委ねてしまったら、僕は心の空洞に巨大な虚無を抱えたまま、いつまでも君の優しさを求めてしまうだろう。それはきっと近い将来、終わりのない絶望と変わらなくなってしまう。
だから今だけは、君の優しさを受け入れる事が出来ないんだ。
ごめんね、でもありがとう。
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